蛙 |
八景の景題のひとつに「夜雨」という言葉があります。この言葉自体に季節をあらわすものはまったくありません。しかし、こと日本ではこれは梅雨の頃と想定することもできます。空には仄かに明るさが残って森の輪郭が浮かび、そぼ降る雨音が聞こえてくる。水辺には蛙たちがさかんに鳴き続けている。そんな音風景が思い浮かびます。
芭蕉の「古池や かわず飛び込む 水のおと」の句は、初めて英訳された時に、かえるを複数型で訳されたそうです。蛙が一匹池に飛び込だあとの静けさを読んだ句だといわれていますので、これでは誤訳になってしまいますが、芭蕉は実は一匹の蛙であるとか、静かだとは一言も言っていないんですね。誤訳とは言い切れないかも知れません。「閑けさやいわにしみいる蝉のこえ」のセミの件もあるし、芭蕉は実はにぎやかさの底に静けさを感じていたとも考えられます。
実際問題蛙が一匹だけで鳴いていると考えるより、普通は合唱しているものです。この間も不用意に畦に近づいたら草葉に休んでいた蛙たちが一斉に逃げ出していった。ゆれる茂みと水田の波紋にこちらがおどろかされました。
芭蕉はホントのところどんな音を聞いていたんでしょうね。